
東京工業大学工学部卒業、静岡大学情報学部修士課程、同工学部理工学研究科博士後期課程修了。その後、電気通信大学大学院情報システム学研究科助教を経て2014年より現職。データマイニング、推薦システムなどの人工知能理論を用いた知的学習支援や次世代eラーニングやソーシャルラーニングに関する研究に興味を持つ。
専門分野との出会いについて教えてください。
小学生の頃はゲームが好きでCGや人工知能に興味があり、漠然と情報系の道に進みたいなと考えていたので、大学で工学部の情報工学科を選択しました。
その後、大学院では問題解決、自然言語処理、ユーザモデル構築などの人工知能技術を応用して、学習、教育、研究、情報検索など人間のさまざまな知的活動を支援するシステムや環境を構築する手法について研究したのが現在の専門分野につながっています。ですので、専門分野は学習工学、学習科学、教育工学といった分野になります。
学習工学について詳しく教えてください
あまり聞きなれないと思いますが、学習工学とは情報工学・知識工学の成果をもとに学習プロセスを促進・支援するための技術・道具を作り出そうとする研究分野のことをいいます。
そのためには人が学習していく過程で、ものごとをどのように理解しているか、どこまで理解しているか、といった理解の状態をどのようにデータ構造としてモデル化するか考える必要があります。学習者の理解状態を表現したモデルはこの分野では学習者モデルといいますが、正確な学習者モデルが構築できると、例えばeラーニングでの学習であれば、学習者個々の理解度に応じて難易度を変えたコンテンツや課題を提供するといったアダプティブ・ラーニングが実現できます。
近年ではeラーニングやwebサイトでの個別学習から、さまざまなICT技術やSNS等のメディアなどを利用した協調学習まで学習活動は多様化しています。さまざまな学習活動に対して、それぞれどのような支援をすると学習が促進できるのかを考え、自然言語処理やデータマイニング、機械学習などの人工知能関連技術を応用して学習者を支援するツールや新しい学習環境を提案するといったことが研究課題になります。
授業ではどのようなことを教えているのですか?
私が担当している「統計解析とデータマイニング」の科目では、膨大なデータの中から役立つ知識を発見する手法を学びます。
役に立つ知識というのは、データの中にある項目間の相関関係やパターン、ルールなどです。そして、見つけ出したルールを未知のデータに当てはめることで、将来や未来を予測することができます。具体的な活用方法としては、マーケティングや売上高の予測、スパムメールの分類などがあります。授業では、Rという言語を使って簡単な統計解析やデータマイニングを行う方法を扱っています。
その他、2017年秋学期にリニューアル予定の「データベース論」では、幅広く用いられているリレーショナルデータベースの基礎を学んだうえで、SQL言語を使った簡単な演習を行います。また、ビッグデータ時代の新しいデータベース技術についても簡単に紹介しています。
専門分野の学習工学を学ぶ面白さは何ですか?
人工知能と関連して、人間が物事をどう理解しているか考えるところが非常に面白いと思います。これまで実用化されてきた人工知能技術の多くは、内部の処理が実際の人間の脳の認識メカニズムと違っていても、結果的に人間が行う意思決定や判断と同じ出力が得られればよいというスタンスでした。
簡単に言えば、事前に人間がルールをたくさん定義しておいて、そのルールに従って人工知能が意思決定するようなシステムです。もちろんこういったルールベースの人工知能には限界があったわけですが、それが最近では、人間の脳のメカニズムを模したニューラルネットワークの技術が発展して、ディープラーニングに代表されるような手法が主流になってきています。以前であれば、猫という概念を人工知能に教える際、猫とはこういう耳をしていて、目がこうで…といったような形状的な特徴をいちいち定義して教えていましたが、ディープラーニングでは大量の猫の画像の中から人工知能が自ら猫の特徴や法則を見つけ出し、猫とはこういうものという概念を学習していきます。ある意味では、人間の子どもが新しい概念を理解するのと似ていると思います。
人工知能の研究も発展していますが、学習支援の研究もそれに伴って変化があります。現代は、インターネット上に膨大なコンテンツがあり、それらを知識限として利用できるようになっています。こうしたインターネット上のコンテンツを教材として活用する際に、効率的に学習するための支援ツールといったものがますます重要になってきます。
さらに、ブログ、TwitterやYouTubeなどのいわゆるユーザ生成メディアの中にも有用な情報がたくさんあります。こうした情報を取捨選別することで、学習活動に活用できる可能性があります。例えば、ツイートを解析して、ある分野に詳しい人や質問に答えてくれる人を探してマッチングしたり、あるいは、テキストや動画内の音声の解析結果を基にして、学習者が必要としている情報をお勧めしてくれたりする、などさまざまな支援が考えられます。今後、こういった情報量はますます膨大になるので、データマイニングや人工知能の技術を用いて人間の学習や情報検索、情報収集などの支援を検討することはますます重要になってくると思っています。
入学検討者への一言
学生の頃は、半ば強制的というか受け身で勉強をしていた方も多いと思いますが、社会人になると自ら勉強したいと思うこともあるのではないでしょうか。「もっと勉強しておけばよかった」「あんなことを学びたい」、もしそう思うことがある方はサイバー大学が向いていると思います。実際に、サイバー大学では多くの社会人の方が学んでいます。ある程度、年齢を重ねてからの方が学びの重要性もわかってきて、好奇心も大きいと思いますから、得るものは多いと思います。何事も始めるのに遅過ぎることはありません。「今からでは間に合わない」とか、「この年齢からでは遅い」などと思わず、いつでも学び始めてもらえればと思います。
東京工業大学工学部卒業、静岡大学情報学部修士課程、同工学部理工学研究科博士後期課程修了。その後、電気通信大学大学院情報システム学研究科助教を経て2014年より現職。データマイニング、推薦システムなどの人工知能理論を用いた知的学習支援や次世代eラーニングやソーシャルラーニングに関する研究に興味を持つ。