教養・外国語 2021.01.05

医用画像で再生医療に貢献する!?

花之内 健仁 花之内 健仁 客員教授
医用画像で再生医療に貢献する!?

私が担当する「医療・ヘルスケアとIT」で取り上げている「医用画像」。これが再生医療に貢献することについて、現在行っている研究の話を交えながらご説明したいと思います。再生医療は、次に示す治療を行うこと全般を指します。

「病気によってもともと必要である組織(ほぼ同一の機能と構造をもつ細胞の集団)が欠損していたり、ケガによって一部の組織の機能が失われたりすることに対して、体外で人工的に培養した細胞、あるいは人工的に構築した臓器などの組織を移植し、失われた機能の修復・再生をする」ということを言います。

人間には、軽いケガなどを自然治癒する能力は備わっています。しかし、著しく機能を失ってしまった部分が大きい場合、それを再生することは困難なのです。従来は、この問題に対して、臓器を移植する手法や、人工的に製造される器械(人工臓器)によって代替する方法が考えられ、一部では導入されてきました。しかし、臓器を移植する方法では、ドナー(供給できる人)不足、拒絶反応、感染症などの課題がありました。また、人工臓器についても、完全に代替しうるものがありませんでした。そのため、もともとある細胞を利用するなどして、組織を生成する取り組みが検討されてきたのです。

私は、骨と骨のつなぎ目である“関節”の診療にあたる医師でもありますが、関節の治療においても再生医療の導入が始まっています。関節の病気は、最初関節の中の軟らかい組織、“軟部組織”という部分が病気やケガによって損傷するところから始まります。軟部組織は、軟骨や半月板といったもので、関節の衝撃を吸収したり、関節を安定的に動かしたりするために役立ちます。軟部組織の損傷に対して、修復処置ができる場合もありますが、そうでない場合は、だんだんと損傷部位が広がり、最終的に人工関節に置換するという治療が行われています。

この人工関節に置換する方法は確立されており、人工臓器を用いた医療の中ではうまく進んでいる分野であると考えます。しかし、人工関節の材料である金属物の破綻、プラスチック部分の摩耗、感染が生じることもあり、必ずしも課題がないというわけではありません。手術の適応年齢も高齢者(65歳)になってからの場合がほとんどであるため、軟部組織の病変があってもきちんと対応できない場合が少なくないのです。こういった課題も存在することから、関節の病気に対する診療においても再生医療が注目を集めるようになってきています。

それでは、どこで医用画像が利用されるのでしょうか?これまでは、再生医療でターゲットとなる細胞をどのように作るのか、その点に多くの研究がフォーカスしてきました。しかし、そこからどのように組織を作っていくのかは確立できていませんでした。

そこで登場したのが、3Dバイオプリンタです。私の授業である「医療・ヘルスケアとIT」で取り上げたもので、組織の形状に近い形で印刷することができます。軟部組織が描出できる医用画像は、MRI(核磁気共鳴画像)であることを授業でも取り上げていますが、下図のように対象となる組織の範囲を抽出し、3次元の画像を作成、それをバイオプリンタで形状を印刷するという工程になります。

図:医用画像から再生医療で使用する再生組織を製造する過程

バイオプリンタでの印刷には種々の方法がありますが、この図では注射器のようなものに造形の材料(バイオインク)を入れて、空気圧によって押し出すことで作成しています。この時バイオインクにターゲットとなる組織の細胞を混ぜておけば、もともとの形状を保ちながら、培養していくことが可能となるわけです。

現在、私はこのバイオインクに関する研究を行っています。上述したようにバイオインクで印刷できたものが、対象となる組織としてふるまうことができるためには、組織固有の強度が必要なはずですので、組織の強度を調べるのが、私の研究領域です。また、その強度を患者様の医用画像から算出できないか、つまり画像と組織の強度の関連性について明らかにする研究を行っています。将来この研究成果が、再生医療の一端を担えるよう活動を進めてゆくつもりです。