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通信制大学のなかの人にインタビュー

Interview14

人工知能(AI)

松原 仁

客員教授

PROFILE

1959年東京生まれ。1981年東大理学部情報科学科卒業。1986年同大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。同年電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所。2000年公立はこだて未来大学システム情報科学部教授。著書に「人工知能に哲学は必要か」、「将棋とコンピュータ」、「コンピュータ将棋の進歩シリーズ」、「鉄腕アトムは実現できるか」、「ロボットの情報学」、「先を読む頭脳」など。

        

出会い

人工知能の研究を始めたきっかけを教えて下さい

子どもの頃に見ていた「鉄腕アトム」がきっかけです。ちょっと変わっていますが、アトムやお茶の水博士ではなく、ある意味悪役でもある天馬博士に憧れていました。天馬博士はアトムの生みの親だからです。この頃はまだ人工知能については知らず、アトムのようなロボットを作りたいと思い描くだけでしたが、ある時、人間の感情や心に興味をもちました。そこで人工知能という分野がアトムをアトムたらしめていると気づき、大学からは人工知能について本格的に学び始めました。

ただ、その頃は人工知能を専門的に学べる大学が国内になく、当時できたてだった東京大学理学部情報科学科の3期生として入学しました。大学ではプログラミングなどを学ぶわけですが、その頃はちょうど第一次AIブームが去った冬の時代。人工知能の授業はないし、先生も誰も研究していなくて期待外れでした。

それでも、それぞれの研究室に人工知能を研究したいと同じ志をもっている学生が少数いて、先輩が作った学生と大学院生だけの人工知能の勉強会へ参加するようになりました。そこで自主的に勉強を始めたのですが、当時は日本語の書籍はなかったので英語の本や論文をみんなで読むのが主な活動でした。

学問

人工知能の研究はどう発展してきたのでしょうか?

先ほど、第一次AIブームと言いましたが、現在は第三次AIブームです。最初のブームはreasoningやreference(inference)、つまり「推論」がテーマでした。人間は、三段論法や論理的推論などをしていると考えたのです。そこで推論という思考の仕組みを研究してコンピュータに載せようという動きが盛んでした。勉強会ではこれらの本や論文を読んでいましたが4、5年すると自分の研究を報告する場になっていきました。

大学院に進んで少しすると、第二次AIブームがやってきました。最初は10名程度だった勉強会も100名を超え、1986年に人工知能学会が発足したりと、今まで目立つことなく自主的に取り組んできた研究が持て囃されてきました。マスコミでも取り上げられ、自分たちとしては急に表に出た感じがして違和感がありました。割と今のブームに重なるものがあると思います。

第二次ブームでは、「知識の量」というのが研究の中心でした。いくら頭が良くても推論ができても、元となる情報がないことには良いことは思いつけないわけです。たくさんの良い情報をどうやったらコンピュータに収められるか、知識工学が生まれたりエキスパートシステムというAIソフトウェアが発達したり、とにかく知識というものに力を入れていました。

研究は良いところまで行っていたのですが、まだインターネットが普及していなかったり、今でいうビッグデータも無なかったので、結果的には「これだけの知識では大したことができないね。」ということで、90年代にまた冬の時代が到来しました。

シンギュラリティの時代

これから人工知能はどう生活に浸透していくのでしょうか?

現在は第三次AIブームですが、第二次までと大きく異なるのはコンピュータの性能です。つまり今までは、人の脳の複雑さをシミュレートする性能がコンピュータに無かったのです。しかし現在では大分能力が上がってきました。昔の研究者が考えてきたアルゴリズムなども、今ならきっと動かすことができるので、人間の脳に近づけるのではないかと思います。

シンギュラリティ※という言葉がありますが、このままコンピュータの性能が上がっていけば、確かに人工知能にどこかで追いつかれ追い越されると思います。しかし僕の感覚でいえば「2045年にいきなり追い越されて大変!」というよりは、少しずつ人間のやっていることがコンピュータに代替されていくんだと思います。

例えば今でも電車の乗り換えや出張先で食事をどうするか、スマホアプリなどにお伺いをたてるのは、意思決定の一部を委ねていることになります。その結果を採用するというのは人工知能の判断を信じているからです。そんなシーンが少しずつ少しずつ増えていくんだと思います。いつまでも最後の意志決定は人間がすると思いますが、かなりの部分を人工知能に任せている状態というのが、僕の考えるシンギュラリティの姿ですね。

※シンギュラリティ… AIが人間の知能を超える転換点(技術的特異点)。または、それがもたらす世界の変化のこと。

人工知能との付き合い方

将来、人間の仕事が人工知能に奪われると言われていますが?

人工知能に仕事が奪われるというよりは、仕事内容が変わるという方が正確です。人間よりもコンピュータの方が上手くこなすようになったからといって、その仕事がすべて奪われるかというとそうではありません。

例えば昔、そろばんの能力に長けた人は経理のお仕事では有利でしたが、今は電卓やパソコンに置き換わっています。駅員さんも昔は改札で切符を切っていましたが、今はICカードの改札に仕事を奪われました。それでも、経理や駅員さんの仕事は今でもあります。20年後にまだ今の仕事があるかというと、もしかしたら人工知能がやっているかもしれませんが、意思決定をするところは人間の役割です。

特に日本社会は、徐々に労働人口が減りつつあります。そのため、生産性を維持するために人工知能やロボットの助けを借りて、より良い社会に向かってくれるのではと思います。

面白さ

人工知能研究の面白さや目標を教えてください

一番の醍醐味は、人間が普段何気なく行っていることが、実はとても複雑な機構、機能で実現されていることに気づけることだと思います。人工知能の研究は、人間とは何か、端的に言えば自分とは何なのかを知るためのものだと考えていますし、最後はそこに戻ってきます。

また始めにアトムの話をしましたが、僕が最終的に目指しているのは、人間の生活に溶け込んで家事を手伝ったり、遊び相手や話し相手になってくれる人工知能やロボットを実現することです。もしかしたら数十年かかるかもしれませんが。

例えば人間が「今日は暑いね」と言ったときロボットが「現在の気温が○度で、湿度は○%で…」とテンプレートを返すのでは気が利かないですよね。「エアコンの設定温度を下げましょうか?」とか「お風呂を沸かしてありますよ」とかそういう関わり合いをしてくれる方が人間らしいと思います。加えて例えば、後で大事な用事が残っているのにお酒を勧めてしまうといったような、余計なお世話を焼いてみたり、ちょっと外したりはみ出すくらいの人間らしさや心をもったロボットはできるはずだと、ほぼ100%確信しています。

メッセージ

入学を検討されている方や、これから先生の授業を受講する学生にメッセージをお願いします

これまでの人工知能は、専門家だけのものでした。ですが、これからはどんな生活をするにしても人工知能が仕事、勉強等に入り込んできます。だから今の人工知能がどういうもので、どのように活用されているか基本的な部分を知っておく必要があると思います。

少し大げさかもしれませんが、これからは人工知能を理解するということは全ての人に必要な能力になってくるのではないでしょうか。しかし、残念ながら小学校から中学校、高校で学ぶようにはなっていません。サイバー大学では「AI(人工知能)入門」を担当していますので、この機会に人工知能についてぜひ学んでいただきたいなと思います。

Q&A
お気に入りのものはなんですか?

鉄腕アトムグッズです。どれとは絞れませんが、数百点コレクションがあります。

尊敬している人は誰ですか?

精神医学者のフロイトです。人間のような知能というものに興味をもったきっかけでもありますが、人間の無意識が人間の心の大事な役割を果たしているというのを学びました。

学生時代はどんな学生でしたか?

本ばっかり読んでいました。人工知能ではなく、小説、哲学書、少女漫画とか色々です。死語かもしれませんが、活字の虫というやつですね。

印象的だった本はなんですか?

山岸凉子さんの「日出処の天子」ですね。少女漫画なんですが、研究に疲れると読んでいました。一時期バイブルになっていて今でも大好きです。やっぱり人と人の絡みが面白かったですね。

研究でくじけることはありませんでしたか?

実は悲観的なんです。何でも上手くいかない前提で始めるので、少しでも上手くいくと他の人以上に嬉しくてモチベーションになりました。この性格は親に心配をかけた気がします。

ハマっていることはなんですか?

マニアックですが「辞書読み」をしています。改訂新版の変更点や、説明が難しい単語の秀逸な説明文をチェックするのが楽しいですね。こればかりは電子版ではなくて紙じゃないと雰囲気がでません。