IT総合学部 教員コラム

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【リレーコラム 第8回】 2010.3.2

「日本の強みであるものづくり産業を支える組込みシステム」

清尾 克彦

清尾 克彦 Seo Katsuhiko

コンピュータ工学、コンピュータアーキテクチャ、組込みシステム

大手電機メーカーにおいて汎用コンピュータのCPUの開発と、HWの設計を支援するCAD開発を担当。半導体技術の進歩とともに、電子機器製品のシステムLSI化(特にHW・SWコデザイン)を推進。その後、企業内の半導体・情報ソフトウェア分野の技術者育成と共に、産官学による組込みシステム分野の人材育成に取り組む。

組込みシステムをご存知ですか?

まだ、あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、組込みシステム(Embedded System)とは、各種の機器に組み込まれてその制御を行うコンピュータシステムのことをいいます。そして、組込みシステムで実行されるソフトウェアを組込みソフトウェアといいます。

 

マイコンを搭載した電気炊飯器から、デジタルTVなどの情報家電、携帯電話などの通信機器、自動車やさらに工場のプラント制御装置まで組込みシステムと見ることができます。
図1に示すように、皆さんの周りを見渡すと、ほとんどの製品が組込みシステムで実現され、日本の強みとするものづくり産業の製品を支えているといえるでしょう。

図1


半導体技術の急速な進歩により、コンピュータの高性能化・コンパクト化と、メモリ素子の大容量化・低価格化が実現されてきました。そして、従来のアナログ処理がデジタル処理に置き換えられるようになり、コンピュータとは無縁であった製品にまで適用範囲が拡大してきました。さらに機能やサービスの向上を目指して、システムの大規模化・複雑化が急速に進展しています。

組込みシステムの例:マイコン内蔵電気炊飯器、携帯電話、自動車

マイコン内蔵電気炊飯器では、人間の五感に相当するセンサで温度や重さなどを計測しながら、昔からの釜焚きのノウハウ(はじめチョロチョロ、中パッパ、ブツブツいうころ火をひいて、赤子泣くともフタとるな)をソフトウェアで実行し、火加減をIH(Induction Heating)で制御して、おいしいご飯を炊いているのです。

携帯電話では、複数個のコンピュータを搭載した高集積度でかつ低消費電力のシステムLSIにより、コンパクトで軽く、電池寿命の長いシステムを実現しています。最近の携帯電話では、基本の電話機能のほかに電子メール、インターネット、カメラ、GPS、ワンセグTVなどが搭載され、加速度センサなどと組み合わせて、色々なアプリケーションが提供されるようになり、多機能化が進んでいます。これらの機能を処理するソフトウェアの規模は一昔前のパソコンOSの規模を越えているといわれ、ますます増加の一途をたどっています。組込みシステムの特徴として、パソコンとは異なり、ソフトウェアの不具合であっても製品の不具合として扱われます。携帯電話も初期の頃は製品回収騒ぎがたびたび発生し、ソフトウェアの品質問題が大きな話題となりました。最近は、パソコンのようにダウンロードで対処できるようになって来ましたが、大規模・複雑化したソフトウェアの品質向上やセキュリティ対策が強く求められています。

自動車に目を転じると、地球にやさしいエコな社会を目指して、自動車の電子化が進み、ハイブリッドカーや電気自動車が注目を集めています。最近の高級車では100個に近いコンピュータを搭載しており、電気自動車ではさらに増加すると予想されます。従来、ブレーキ、アクセルやハンドルなど人間の操作を機械的な手段で伝えていたものが、センサからの情報を実時間でコンピュータが処理して、自動車を操るようになってきました。このように電子化された自動車では、ある限られた時間内に確実に処理を終えなければいけないリアルタイム性と、何かトラブルがあったときに確実に安全側に動作が働くように制御する必要があります。エアバッグ装置では衝突を検知してから人間を安全に守るために限られた時間内に確実に動作する必要があります。エンジン制御では、高速回転時でも正確に周期内で点火制御をおこなう必要があり、何か不具合があれば安全側に制御を切り替える必要があります。また、今までそれぞれ独立していた制御装置を、車内ネットワークで接続して、連携動作させることにより、より快適性・安全性を高めることが行われるようになってきています。このように機能が増すごとに組込みソフトウェアの規模は拡大し複雑性が増してきています。
ちょうど世間の話題にのぼっているエンジンの電子制御システムは、まさにこの範疇に入るもので、ソフトウェアを含めたシステムの信頼性と安全性が特に求められています。

組込み系ソフトウェア開発力強化の取り組み

以上のように、組込みシステムの世界では、製品づくりとしての最適化(ハードウェアとソフトウェアの協調設計によるコンピュータの有効活用)と、急速に大規模化・複雑化が進んでいる組込みソフトウェアの生産性向上と信頼性・安全性の作りこみが重要になってきました。また、組込みソフトウェアの開発を支える人材の量と質の確保が求められるようになってきました。
このような状況に対応して、組込みシステムのなかで比重が高くなってきた組込みソフトウェアの視点から、日本の強みであるものづくり産業を強化していこうと、産官学が連携した組込み系ソフトウェア開発力強化の活動(注1)が2004年からスタートしました。
この活動のテーマは、以下のとおりです。

(1) 高品質な組込みソフトウェアを効率的に開発するための開発手法・技術を整備し普及を図ること
(2) 組込みソフトウェア開発力強化のために、有効な「人材育成」や「人材活用」を実現するための指針となるように、組込みスキル標準(ETSS:Embedded Technology Skill Standard)を策定し普及を図ること

私は当初からこの活動に参画し、後者のETSS(注2)の策定に教育部会の主査として参加してきましたので、ETSSについて紹介します。

組込みスキル標準(ETSS)とは

今まで紹介してきたように、組込みソフトウェアの開発では、ハードウェアを含めて多くの知識を必要とし、組込みシステム特有の制約条件の中で、効率よく、かつ品質や安全性を作りこんでいくために、体系的な人材育成の仕組みが必要になります。
ETSSでは、組込みシステムの応用分野に応じて、最適な人材育成の仕組みができるように、組込みシステムとして共通的な領域を対象に、モノサシとなるべき3つの基準を作りました。

1. スキル標準:組込みソフトウェア開発に必要なスキルを体系的に整理したもので、スキルのモノサシを提供
2.キャリア基準:組込みソフトウェア開発の職種名称や職掌を定義し、職種/専門分野とレベルごとに必要となるスキルセットを定義したもので、キャリアのモノサシを提供
3.教育研修基準:スキルアップ、キャリアアップを支援する教育プログラムの普及を図るための雛形を提供

スキル標準は、「技術要素」「開発技術」「管理技術」の3つのカテゴリから構成されています。組込みシステム製品を開発する際に「技術要素」を構成要素として、「開発技術を用いて」開発を行い、「管理技術を駆使して」開発プロジェクトを管理することになります。組込みシステムとスキル基準(3つのスキルカテゴリ)の関係を図2に示します。
キャリア基準や教育研修基準については、IPA-SECのHP(注1)を参照ください。

図2

このETSSを活用することにより、以下のようなメリットが考えられます。
・経営者にとっては、企業の事業戦略を実現するのに必要な技術・スキルを可視化することにより、人材リソース戦略を具体化できます。
・マネージャ/プロジェクトリーダにとっては、ターゲットとなるプロジェクトに必要なスキルを持った人材をそろえることでプロジェクトを成功に導くことが可能になります。
・技術者個人にとっては、自分のスキルレベルを可視化(たな卸し)することにより、自分の強みや弱みを客観的に認識して、将来に向けて計画的な取り組み(自らの成長戦略)が可能になります。

最後に

日本の強みであるものづくり産業を支える組込みシステムは、ますます重要になってきています。そして、ETSSを活用した人材育成の取り組みも、いろいろなところで展開されています。サイバー大学のような完全にバーチャルな学習・研究環境においても、組込みシステムを教材や研究対象にうまく取り込んでいけるように取り組んでいきたいと考えています。

サイバー大学で学ぶみなさんも、若いうちから、それぞれの分野で、目標をたてて、キャリア設計し、サイバー大学のカリキュラムをうまく活用して未来に挑戦していっていただきたいと思います。

 

(注1)独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)のソフトウェアエンジニアリングセンター(SEC)のHP(http://sec.ipa.go.jp/std/eb.php)を参照

(注2)ETSS:Embedded Technology Skill Standards(2005年5月公開)http://sec.ipa.go.jp/std/skillex_eb.php#3参照。一般のソフトウェア技術者を対象にしたITSS:Information Technology Skill Standard(2002年12月公開)や、情報システム部門の技術者を対象にしたUISS:Users’ Information systems Skill Standards(2006年6月公開)があり、情報処理技術者試験では共通キャリア・スキルフレームワークを参照モデルとして、これら3つの標準との整合化を図っている。

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