IT総合学部 教員コラム

IT総合学部 教員コラム 一覧へ戻る

【リレーコラム 第7回】 2010.2.12

「新幹線に相当する研究インターネット」

小西 和憲

小西 和憲 Konishi Kazunori

国際研究教育ネットワーク

1985年から10年間、わが国で最初のインターネット国際接続を担当した。 その後、科学技術庁の省際研究情報ネットワーク管理を経て、アジアを取りまとめるAPAN(エーパン)を組織化した。 米国政府NSFに対する提案書を執筆・編集、日米間の研究ネットワーク接続(現在10ギガビット/秒)基金を獲得している。

インターネットが成長した背景

インターネットに先立ち、コンピュータ処理を時分割することで、複数のユーザが同時に1台のコンピュータを共同利用するタイムシェアリングシステムが誕生していました。

 

次いで、このタイムシェアリングシステムを効率的に利用するため、一つの物理回線上に、コンテナに相当するパケットを導入して、複数の通信を同時に実現するパケット通信技術が誕生したのです。その将来性に着目した米国政府(国防総省DARPAおよびアメリカ国立科学財団NSF)が研究者用にパケット通信網を育てました。パケット通信規格としてTCP/IPプロトコルが標準化され、そのパケット通信網をインターネットと呼ぶようになりました。

アジアの研究インターネットAPAN(エーパン)

研究インターネットの便利さが知れ渡ることとなり、TCP/IPプロトコルを採用した商用インターネットが誕生しましたので、一般家庭でもインターネットを利用できるようになりました。しかし、現在でも商用インターネットとは独立した、研究インターネットが世界中で稼動していて、商用インターネットには無い、先進的なネットワークサービスが提供され、さらに優れたサービスを提供すべく研究開発も進められています。筆者はアジア域内の研究インターネット・コンソーシアムAPANの創設者の一人で、ネットワーク運用責任者を務めています。

APANは図に示しましたように、日本を主要な拠点として、アジア各国へ展開されています。とりわけ、米国政府NSFは、1998年から日米間に高速インターネット回線を提供してくれていて、米国とアジア各国の共同研究を支えています。現在の契約は本年3月末で一旦完了しますが、引き続き5年間、つまり米国政府NSFが2015年まで研究専用の高速回線/新幹線を日米間に提供してくれることが内定しています。

資料:Asia-Pacific Backbone Topology

研究インターネットの役割

研究インターネットは「世界で一番を目指す」研究者に優れたネットワーク環境を与えるだけでなく、次世代ネットワーク技術の研究者に実験できる広域テストベッドを提供しています。具体的には、以下の研究活動を自ら行うと共に、関連研究者の研究活動を支援しています。

1 高速通信を実現するシステム構成
高エネルギー研究等の大規模E-サイエンス分野では、国際共同研究の研究者間で大量のデータを共有し、競って自分のコンピュータ環境に取り込み、データ処理することとなります。 
「一番」を求められる研究者は、最高速度の出るネットワークを必要とし、現在は10Gbpsの転送速度を求めますし、2-3年後には100Gbpsの高速データ転送を期待しています。
エンドツーエンド間(2点間)で高速転送を実現するためには、高速回線を採用しただけでは充分でなく、サーバやクライアントにおけるTCPプロトコルの処理やその上で動くアプリケーションを高速化することが必要となります。現在の商用技術は、通常1Gbpsまでを対象としていますが、これを10Gbpsや100Gbpsでも使えるようにするための研究課題が沢山残っています。

2 他のネットワーク状態もリアルタイムに把握できる
インターネットは自分独自の接続/転送ポリシーを持つ自律したネットワークが次々を接続し、大規模ネットワークとなったものです。エンドツーエンドの通信を実現する際、パケットの転送経路を決めるプロトコルの設定では、回線速度等を考慮しますが、現在どの程度のトラヒックが流れているか、あるいは、その回線区間にパケットロスが発生しているか等の動的な情報を利用していません。研究ネットワークでは、ネットワーク管理者が協調して、共通のネットワーク計測ツールを実装し、その計測データを共有し合うことで、研究インターネット全体の性能を把握し、最適なエンドツーエンド通信を実現する研究を進めています。

3 パケットの往路と復路をしっかり把握し、制御する
現在の商用インターネットは接続性を重視していて、エンドツーエンドの通信でどの経路を通るべきかを厳密に制御していないだけでなく、観測してもいません。このため、パケットの往路と復路が異なっている現象が普通に観測され、往路と復路では伝送速度が大幅に異なる場合もあります。
研究インターネットでは、各インターネットが実施しているパケットの経路制御情報をサーバに集め解析することで、不適切な経路制御を検出し、これを運用者に通知することで、経路制御を改善しています。 

4 IPv4を延命し、経路数を削減する
インターネットでは世界で唯一のアドレスとなるよう、グローバルに管理されたIPv4アドレスを利用していますが、IPv4アドレスを管理しているJPNICやAPNIC等の在庫が少なくなりました。
これを見越して、IPv6プロトコルを標準化したのですが、ユーザがIPv4からIPv6に完全移行すると、通信できない相手やサーバが増えるため、先陣を切って移行したユーザにとっては「百害あって一利なし」という状況が続いています。
この状況を踏まえ、大きなIPv4アドレス空間(例えば、クラスBアドレス-64K個のホストを接続できる)を持っている所有者がその未使用アドレス空間の一部を市場に出すことができるようになりました。しかし、この売買を推奨すると、小さなアドレス空間から成る経路数がますます増え、ルータに搭載されたメモリでは計算処理できなくなる可能性が高まっています。このため、経路の翻訳機能をインターネットサービス事業者のゲートウェイに持たせることで、経路数を削減する研究開発を進めています。

5 最適なエンドツーエンド通信方式を選択する
インターネットの上に流れている2点間のトラヒックフローを観測すれば、多数の2点間に少量のフローが流れ、一方、少数の2点間で大量のトラヒックが流れていることが判ります。
とりわけ、E-サイエンスの研究を推進している機関数は少ないのですが、それらの共同研究機関間には大量のトラヒックが流れています。少量のトラヒックを多数の相手と送受信することはインターネットが得意としてきた分野ですが、一方、特定2点間に大量のトラヒックを流す場合には、その2点間にVLANや回線を動的に設定するのが望ましいと考えられ、ハイブリッドなネットワーク構成を実現する研究が進められています。

6 国際協調のために中央管理されたサーバ群
国際間で大規模な共同研究を行う場合、1箇所に大規模なコンピュータを設置し、これを各地からアクセスする形態を採用することもありますが、一方、データの発生する地点にサーバを随時設置し、これを中央で一括管理する方法もあります。後者は、米国のプリンストン大学が中心となって研究開発されたPlanetLabを代表的なモデルとし、米国政府NSFや欧州共同体EC等の次世代インターネット研究のベースとなっていまして、既存インターネットとの連携を保ちながら、大規模な次世代ネットワークへ発展するための研究が世界で推進されています。

7  世界で一番の高級サービスも将来は大衆サービスとなる
研究の世界では一般に高価な機器を使い、誰もが一番を目指します。一番になり高い評価を受けることも一つの目標ですが、それだけではないのです。インテル社の共同創業者の一人である、ゴードン・ムーアは1965年「半導体チップに集積されるトランジスターの数は約2年ごとに倍増する」と予測しましたが、これが今でも当てはまっています。このため、大量のメモリや高速CPUを使う高価なシステムも、間もなくすれば、誰もが購入できる大衆機器となるのです。これを考え、世界で一番の楽しいサービスを研究開発すれば、間もなく、大衆に歓迎される安価なサービスになるということです。従って、世界で一番のサービスを研究開発すべく、研究者と運用者が協力して、高級で高速な大容量メモリを積んだ機器やネットワークを使って、例えば、超高精細度のビデオ通信の研究開発等を進めています。

 

 

IT総合学部 教員コラム 一覧へ戻る

IT総合学部では、ITとビジネスの両面を教えることを基本コンセプトにしています。最先端の情報技術を総合的にとらえ、未来に向けて人々が豊かな人間性と多様な個性を育む社会の可能性を追求できる技術の研究教育と、その応用としてのケーススタディ、さらにITが実際のビジネスにおいてどのように活用されているかなどITを使った最新のビジネスモデルまで、深く幅広く学びます。 

IT総合学部の紹介はこちら

2012 春学期生募集!(IT総合学部)  二次募集:2012/2/3(金)~2012/2/28(火)

サイバー大学は、社会人が学ぶために最適な教育環境を用意しています。
二次募集期間中に出願、合格された方は「入学金半額特典」が適用されます。

詳しい資料を無料でお送りします

資料請求

入学に関してご質問やお悩みに個別でご相談を受け付けます

大学説明会予約

このページのトップへ