世界遺産学部
西欧建築様式史概論 / 建築学基礎演習
社会的な存在としての人間の壮大な営み全体を、建築という「かたち」を借りて理解する

西本 真一
Nishimoto Shinichi
建築史、意匠、考古学、古代建築技術、空間論
「予備知識がない状態で、どこまで自分自身を発揮できるかという内なる熱意が最も重要」西本教員が、西欧建築の魅力や授業の見どころ、学生に伝えたい思いを語ります。
教員が語る「実践力を育む授業」
- 西本先生が感じる西欧建築の魅力や特徴はどういった点にありますか?
- 西欧建築は正統的な様式に沿う流れと、これと相反した流れのふたつが交互に繰り返され、慣れればすぐにおおよその時代を推測することができると思います。様式は目まぐるしく変化しているので、時代判別の大きな目安となります。
西欧建築史は主としてキリスト教建築の歴史に重なりますが、建築は人間の生活文化に密着した大きな人工物ですから、時代も地域も異なっているにも関わらず、日本人にもある程度の類推がつくという魅力があります。生活の様式がどのようなものであったか、また建築の格式がどのように付与されるのか、見ていくことは楽しみのひとつになるのではないでしょうか。海外旅行に出かける際の参考として、当科目を選ぶ方も少なくありません。
古代エジプト時代は建築の試行錯誤が長く続いた時期で、その後の古代ギリシア時代に定式(オーダー)が形づくられ、古代ローマ時代はこれを尊重して継承しました。ロマネスクでは定式をかすかに伝えるものの、むしろ地方色を反映させた建築の造り方を見せています。ゴシックは前時代を発展させて大きな聖堂を建てましたが、これも古代ギリシアの定式を無視した造りでした。
ルネサンスは建築史の流れを大きく変えた動向で、再びギリシア・ローマの様式に戻ろうとした時代です。そして定式成立から2000年ほどの歴史を経てきた現在では、構造力学の発展とともに近代建築が登場。かつての定式が表面上はまた姿を消しています。順当に発展していく流れというものが、建築史ではうかがえません。
担当する基礎講義と基礎演習では、片方で西欧建築の流れを足早にたどりつつ、また他方では小説や映画・コミックに登場する建築を自由に想像するという構成を狙っています。建築の世界における歴史と地理、またこれまで造られたものとこれから造られるものという縦糸と横糸との編み目を通して、建築の全体像に触れてみたいと思っています。
- 授業の見どころ、聴きどころを教えてください。
- 1.古代エジプト建築史は、他の大学ではあまり詳しく論じられないかと思われます。3000年間続いたこの時代の華やかな建物に、撮り貯めたスライドを多数用いて詳しく言及します。海外の文献を紹介するとともに、4年次の卒業研究を進める上で参考となるように、学内のSNSでも、またブログ「西本真一エジ本」)でも公開しています。
2.ロマネスク建築とゴシック建築は相対的に人気が高いので、内部空間の光と影とが印象的なロマネスクから、ステンドグラスの高窓が並ぶ厳かなゴシック建築への移行については、分かりやすく説明するように努めました。ゴシックは建物の外側からつっかい棒で支えようとした奇妙な建物であると捉え、その魅力を探ります。
3.ルネサンスの彫刻家として有名なミケランジェロが、建築設計でどれほど正統的な造り方(オーダー)から逸脱していたかということに着眼し、彼の設計したラウレンツィアーナ図書館を取り上げ、解説しました。ジュリオ・ロマーノについても紹介しています。「建築は美しいものだ」という観念が、ここでは大きく変えられている点が了解されるかと思います。歴代の有名な建築家が、「細部にまで精緻な計算を尽くし、美の結晶としての建築作品を打ち立てた」という見方は空想で、むしろ彼らの主眼は従来の世界を打ち壊すことにありました。そうした観点も踏まえて、西欧建築様式の変遷や、建築空間とは何かを学び、世界遺産のさらなる理解に努めていきたいと願っています。
4.建築家は本来、楽天家です。彼らが「いい加減さのさじ加減」をどのように勘案したのか、彼らの設計した建物を概観することにより、建築に対する考察が深まるのではないでしょうか。専門知識としての建築学ではなく、身近な存在として建物を見るという点からも建築を探ることを試みており、小説・映画・コミックなどから自由に建物を想像する演習を通じ、多角的に建築作品を眺めたいと思っています。
- 学生へのメッセージをお願いします。
- 建築の関連分野は、工学・保存学・歴史学・美術史学・考古学など、きわめて多岐にわたります。学生諸君にはまず、「できるだけ専門分野とかけ離れた分野にも目を通し、何でも貪欲に手を広げるべきだ」と推奨しています。「建築学基礎演習」では、たとえばコミックの「ONE PIECE(ワンピース)」から建物の平面図や断面図などを想像してもらっていますが、簡単な図法の描き方を数ページの資料として示す以外に、本格的な製図の訓練は一切おこないません。絵の上手下手は関係なしです。自分が今持っている知識の範囲内で、どれだけ建築というものに向き合えるかを重視しています。
建築とは、いつの時代にあってもそういうものであったし、新しい建築の表現をめざす場合にはいつも設計者は“手ぶらの状態”であったのだという点を受け止めてほしいと思います。予備知識がない状態で、どこまで自分自身を発揮できるかという内なる熱意が最も重要。「私には無理だ」と自分で障壁を作るべきではありません。その積極的な姿勢が新しい世界を切り開きます。どの科目にも通じることだと思います。
本学には、考古学関連の科目、宗教関連の科目、またアジア建築に関する科目なども併設されています。これらを学ぶことが、建築というものの全体像を把握する一助になるのではないでしょうか。それは社会的な存在としての人間の壮大な営み全体を、建築という「かたち」を借りて理解することと同じなのだ、そう考えることもできそうです。




















